コンテンツへスキップ
Home » 青い花のキクニガナ(Wegwarte)

青い花のキクニガナ(Wegwarte)

  • by

私の好きな植物の一つにヴェグヴァルテ(和名:キクニガナ、学名Cichorium intybus)という薬草があります。

お日様に向かってまっすぐ伸びるキクニガナ(Cichorium intybus) by Christian Fischer, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
お日様に向かってまっすぐ伸びるキクニガナ(Cichorium intybus) by Christian Fischer, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
キクニガナの花
キクニガナの花

薬草の中で、効能が素晴らしいために好きな薬草と、ついその見かけに惹かれてしまうものとあるのですが、
キクニガナに関して言えば、おそらく後者で、この植物を好きな大きな理由はその可憐な青い花にあると思います。

自然界で、比較的青い花は少ないと思うのですが(オオイヌノフグリ、ツユクサ、アジサイ、ムスカリ、忘れな草の辺りがそうでしょうか)ベルリンで散歩をしていて自然の中にいきなり現れるこの淡い青むらさきの花をみると、いつもうっとりしてしまいます。薄むらさきと青の混ざったような色をしていてとてもユニークです。

「キクニガナ」というと、なかなか聴き慣れない植物のように感じますが、実はキクニガナの別名は「チコリ」なんです。

<キクニガナ=チコリ?>

チコリというとあの少しほろ苦い小さな野菜を思い出される方も多いのではないでしょうか。
野菜のチコリはキクニガナを野生種とし、同じキク科ではあるもののその学名は異なりCichorium intybus var. Foliosumといいます。

見かけも結構違って、葉は長く大きく、根の大きさもキクニガナとは違います。

このチコリを12cm程まで育て、成長した葉っぱを取り除き、暗い地下室で軟白栽培し、出てきた芽の部分をある程度の大きさで収穫したものがスーパーに並んでいるわけです。

野菜のチコリ(Cichorium intybus var. Foliosum)の葉部分
野菜のチコリ(Cichorium intybus var. Foliosum)の葉部分
野菜のチコリ(Cichorium intybus var. Foliosum)が軟白栽培ののち根から出た状態のもの。CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons
野菜のチコリ(Cichorium intybus var. Foliosum)が軟白栽培ののち根から出た状態のもの。CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons

今回ご紹介する薬草のキクニガナはGemeinen Wegwarte、直訳すると「一般的なチコリ」です。なんとも平凡な名前に、何だか美しいキクニガナに申し訳ないような気持ちさえしますが・・・。

キクニガナの原産地はヨーロッパ、北アメリカ、西アメリカ。
通常、道端や土手、乾燥した野原などに育ちます。

野菜のチコリ同様、野生のキクニガナも、花、葉は苦味があるものの種と共に食用とされ、根はそのままパースニップ(白いニンジンのような見かけのセリ科の野菜です)の様にスープにしたり炒めたりして食べることができます。また、根を細かくして焙煎されたものが、コーヒーの代用品やコーヒーの添加物として世界中で使用されています。

思えば私が2017年にニューオリンズを旅した際に、粉砂糖のたくさんかかった揚げドーナツベニエと一緒に出されたのもチコリーコーヒーでした。

ニューオリンズカフェドゥモンドのベニエ
カフェドゥモンドのベニエ
ニューオリンズ、カフェドゥモンド本店の名物のベニエとチコリーコーヒー
2017年に訪れたニューオリンズ、カフェドゥモンド本店の名物のベニエとチコリーコーヒーもいただきました。

また、1970年代の東ドイツコーヒー危機の際に発売されたミックスコーヒーにもキクニガナは入っていたらしいです。このミックスコーヒー、東ドイツ国民からは全く受け入れられず、猛反発を受けたらしいですが・・・。

東ドイツで発売されたミックスコーヒー(Mischkaffee)Illustratedjc, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
東ドイツで発売されたミックスコーヒー(Mischkaffee)。このブランド以外のものもいくつかインターネット上で見つけました。by Illustratedjc, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons

野生のキクニガナの根でも勿論コーヒーは作れるのですが、大量生産用には野生のキクニガナではなく他の種類のチコリ(おそらくCichorium intybus var. Foliosum?)を使ってるんじゃないかなと思います。

近いうちに是非チコリコーヒーの会社を訊ねてみたいなと思ったりします。(絶対変な人扱いされますよね。結構もう慣れていますが・・・。でも、どうしても知りたいことを知れるからいいか!)

キクニガナの根には58パーセントのイヌリン、カフェイン酸、クマリン、フラボノイド、エッセンシャルオイル、セスキテルペンラクトン(少量であれば炎症の抑制作用等あり、動脈硬化症の予防や治療の助けになるらしい)、ビタミン類とミネラル類が含まれるとのこと。

根のその苦さが体を強化し、浄化させる働きがあるとされ、衰弱した体の消化液を刺激し食欲を促進させ、胃、肝臓、脾臓の働きを助けるとされています。

また、結膜炎やドライアイといった目の治療にも使われます。花は鉄分が豊富で、乾燥させた花のお茶は貧血によいとされます。

名前がひときわ可愛いイヌリンは、水溶性食物繊維の一種で、腸内の善玉菌を増やしフローラ環境を整えたり、血中に含まれる脂肪を低減したり、食後の血糖値の上昇を緩やかにする効果もあるんだそうです。

イヌリン、名前が可愛いだけじゃないんですね。

可愛い名前つながりのクマリンはシナモンに多く含まれます。大量摂取をすると肝臓によくないという研究もあるようなので、私の中では、今イヌリンの株が上がり気味です。笑

でも、どちらにせよクマリン、イヌリン、可愛すぎでしょ!

そして、そんなキクニガナのドイツ名は、Wegwarte(ヴェグヴァルテ)。
直訳で「路傍で待つ」という意味です。

直訳の名前が気になったので調べてみたら、ドイツにはキクニガナについての悲しい伝説や詩が多くあるようなので、

今日はその一つをご紹介します。

 

『その昔、戦場へ行ってしまった愛する人を想う一人の姫がおりました。

くる日もくる日も、道端で彼の帰りを待ち続け

日が暮れると頭を垂れて帰っていきますが

次の日また朝日が上ると、侍女と共にまた同じ場所で彼を待つのでした。

その日々はあまりに悲しく、辛いものでしたが、

彼女にできることは、自分の心に残されたかすかな希望を信じ、待ち続けることしかありませんでした。

ある日、神はそんな姫を見て決心をしました。

姫を白いキクニガナへ、そして侍女を青色のキクニガナの姿に変えたのです。

彼らは、今でも道端で彼の帰りを待ち続けています。』

 

悲しいけれど、美しいお話ですね。

この話を知ってからは、キクニガナの花を見ると、そのけなげな姿がよりいとおしく感じるようになりました。

キクニガナに少し似たヤグルマギク(Kornblume)という花もありますが、こちらは食用の飾りとして紅茶やおしゃれなお塩に入っていたりします。

ヤマルマギクもキクニガナと同じような環境を好むようで、草むらで突如現れてわたしの目を楽しませてくれます。どちらの花の青さもそのそれぞれ違って美しく、見つめていると吸い込まれてしまいそうな気さえします。

ヤグルマギク
ヤグルマギク(by böhringer friedrich, CC BY-SA 2.5 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5>, via Wikimedia Commons)

<参考文献・サイト>

“Unsere Heilkräuter” by Dr. Ursula Stumpf
“Encyclopedia of Herbal Medicine” by Andrew Chevallier
https://www.mein-schoener-garten.de
https://diegluecksfinderin.de

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

error: Content is protected !!