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口に苦くない良薬?スペインカンゾウ(Echtes Süßholz)

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「良薬口に苦し」

という言葉があります。

確かに、薬草には苦いものや独特の匂いのあるもの、青臭いものも多いからなぁ。
しかし、実際に薬草の中でも苦みが強い=良薬か、というところは言い切れるかどうかは正直わかりません。ドイツでも、かつては薬草の匂いが強いほど、効果や魔力があると信じられていた感はあるようですが、実際がそうかどうかは是非調べてみたいものです。

今のところわたしの予想ですが・・・。

おそらく苦くない「良薬」もあると思います。

今日は、早速苦くないだけではなく、むしろ甘い「良薬」をご紹介したいと思います。

<スペインカンゾウ>

その薬草は、その名も甘い草と書いて「甘草」。今日ご紹介するのはスペインカンゾウ(ドイツ語ではSüßholz)といいます。

これまで私も日本でカンゾウ(甘草)という薬草の名前は耳にしたことがあったのですが、今まで実際に服用したことはありませんでした。

セイヨウカンゾウの根
乾燥されたセイヨウカンゾウの根

ちなみに、世の中には「砂糖以外に甘さが取れる植物」がどんなものがあったか、少し脳内検索してみました。

そして、昔アジサイ科の植物アマチャの甘さから作られた「あまちゃかっぽれ」と呼ばれるのお菓子が好きだったことや、昔売られていたポカリステビアがステビアという植物の甘さで作られてたことなどを思い出しました。

そうなんです。結構、甘い薬草って身近に結構あるんですよね。

アマチャの花
アマチャの花

さて、甘草の話に戻りますが、漢方でもよく使われている日本でいう甘草はウラルカンゾウという植物(Glycyrrhiza uralensis)のことだそうで、その効能はスペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)ととてもよく似ているようです。どちらもマメ科カンゾウ属です。

2つの外見上の違いは、スペインカンゾウは小葉の形が細長いのに対し、ウラルカンゾウは葉が丸みを帯びていることだそうです。

また、2つが同じ環境で育った場合、スペインカンゾウの方が背丈が高く育つことが多いそう。

ウラルカンゾウは固体によっては葉から粘りのある甘い汁(触るとベタベタする)を分泌するものもあるそうです。

どちらも葉やお花が随分とマメ科な感じですね。

ニセアカシアの葉みたい。(ちなみにニセアカシアもマメ科です。)

セイヨウカンゾウの葉
セイヨウカンゾウの葉

 

ウラルカンゾウ
ウラルカンゾウ(セイヨウカンゾウに比べると、確かに葉が丸みを帯びていますね。)

 

ニセアカシアの葉
ニセアカシアの葉 撮影者Brosenさん

 

スペインカンゾウの花
スペインカンゾウの花
スペインカンゾウの原産は東南ヨーロッパや南西アジア。
ドイツの薬局やドラックストアで売られている咳止めや気管支用のお茶や、胃腸用のお茶によく使われており、私もよくお世話になっています。
気管支用、気管支用、胃腸用のお茶
左上から気管支用、下も気管支用、右上は胃腸用のお茶です。

 

気管支・咳のお茶
黄色のところにセイヨウカンゾウは100g中の気管支用のお茶に25g(4分の1の割合)で入っていると書いてあります。

セイヨウカンゾウの原産はドイツではないけれど、グローバルな世界なら植物界もそうなのでは?

セイヨウカンゾウによく似ているニセアカシアはそこら中に生えているからスペインカンゾウもあるよね?と、ベルリンの野原を探しているわたしですが、マメ科の草花はあってもスペインカンゾウは見つかりません。涙

ベルリン郊外のポツダム市(サンスーシ宮殿があることとポツダム宣言がされたことで有名)にて野草ツアーに参加した時にも、主宰の薬草家の方にスペインカンゾウを見つけることができないことを相談すると「え、ドイツにスペインカンゾウって生えてるの?私は見たことないけど」という答えが返ってきました。

やはり、天候の違いからか、スペインカンゾウはドイツには自然には生えていない可能性が高そうです・・・。

太陽が大好きな植物とのことですしね・・・。

<後日談>
そして、実はこのブログを書いたあと、いつも私が参考にさせていただいている薬草の本の著者でもある Dr. Ursula Stumpfとメールの交換をすることが出来まして(感動!!)彼女もセイヨウカンゾウをドイツの自然界では一度も見たことがないとおっしゃっていました。

ということで、ドイツでは見つけることは出来ない可能性が高いですね・・・。チーン。

様々なお茶や薬に使われていて大活躍のスペインカンゾウは、甘味成分のグリチルリチン(トリテルペン配糖体)を始め、イソフラボン(リクイリチン、イソリキリチン、ホルモノネチン)、多糖類、植物ステロール、クマリン、アスパラギンを含み、その効能は、抗炎症薬としての働きに始まり、去痰や粘膜の炎症による痛みの鎮痛、副腎皮質薬として、時には軽い下剤にも使われるなど多岐に渡ります。単純な甘味料ではないんです。

効能に、軽い下剤として使えるのは驚きでしたが、全体的な胃腸への働きとしては分泌物の量は減らしつつ、粘液で厚い壁を作り胃腸の炎症を抑える働きをするそうです。

胃腸の働きを整えるという意味で、胃腸痛を抑えつつ、なおかつ下剤として使えるのはなんとも不思議。これは、今後も気に留めておこうと思います。
1985年に日本で行われた研究によると、甘味成分であるグリチルリチンは慢性の肝炎や肝硬変の治療に効果を表したとのこと。古代ギリシャでは、喘息や口内炎の薬としても使用されていたそうです。

現在でもその抗炎症薬としての働きは、消化器系や消化性潰瘍、胃酸過多に始まり腫れ目にさえも使われるそうです!

なんともオールマイティーな薬草ですね。

しかし、さまざまな効能があるセイヨウカンゾウも、妊婦の方への使用は禁忌、また心臓や肝臓に問題がある、あるいは高血圧の人は、服用する量には十分な注意が必要です。
薬草とされているものも、服用する量によって毒ともなりうるということを気をつけておかなければなりませんよね。

服用量繋がりで、15世紀を生きたスイスの医師パラケルススの言葉で、わたしの気に入っているフレーズを一つご紹介したいと思います。

“Alle Dinge sind Gift, und nichts ist ohne Gift. Allein die Dosis macht, dass ein Ding kein Gift sei.”
(すべてに毒はあり、毒がない植物はない。適した量をもってこそ、それに毒がないと言えるのだ。)

ほんとその通りだなと思います。

どんな植物にも毒は存在し、その量を間違えると毒になりうる。

そして、毒草として知られている薬草も、量によって良薬になりうる、ということ。

この言葉を常に心に留めて、改めてしっかりと植物について詳細まで気をつけて勉強しようと思いました。

さて、薬草としてかなり優秀なスペインカンゾウですが、薬草として使われると同時に、なんと昔から北欧の国々、オランダ、英国、ドイツなどの国々で老若男女に愛されるグミやキャンディーなどのスイーツとしてその国の文化として根付いているんです。

元々はフィンランドの薬局で塩化アンモニウムを加えたものが喉の炎症や痛みを抑えるのど飴として売り出されたのがはじまりのようで、今でも北欧全体でもかなりの定番となっているとのこと。

スペインカンゾウのグミの色は真っ黒なんですよ〜。

セイヨウカンゾウのグミやワインガム
セイヨウカンゾウのグミやワインガム

真っ黒な理由は、自然の色素E153(活性炭が主成分らしいです)でその黒みを強くしたからだそうなのです。でも、もしスペインカンゾウだけで作ったら一体何色になるのか気になります。

その情報が、いくら探しても見つからないのですが、おそらく黒くしなきゃと作る人に思わせるほど茶色くて見かけがイマイチでウサギの〇〇のように見えてしまったのでは、と勝手に想像しています。笑

何故黒くする必要があったか、その背景を是非とも知りたいです。

(ご存知の方がいらっしゃったら教えてください!!)

スペインカンゾウ製品には、他のフレーバーと合わせてサンドイッチ状になっているものや、魚の形で塩味のついたもの、猫の手の形をしたものなどなどバラエティに富んでおり、わたしもつい最近ずっと気になっていたサンドイッチ状のものを食べてみました!

アニスのようなスペインカンゾウの味と他のフレーバー(チョコやココナッツ、ストロベリー)との相性もよく、なかなか美味しかったです!
セイヨウカンゾウがサンドイッチ状になったもの
セイヨウカンゾウがサンドイッチ状になったもの(セイヨウカンゾウは黒い部分です)

 

塩ニシンと名付けられたセイヨウカンゾウ味&塩味のワインガム
「塩ニシン」と名付けられたセイヨウカンゾウ味&塩味のワインガムです。これはドイツ人でも食べられない人が結構居るようです。笑

 

セイヨウカンゾウのワインガム。これは「猫の手」と呼ばれるもの。
セイヨウカンゾウのワインガム。これは「猫の手」を形どったもの。

以前食べたスペインカンゾウのみ入ったキャンディーは結構ハードル高かったですが・・・。
おそらく日本人の感覚で言えば、スペインカンゾウの味は漢方の味というか、亀ゼリーの様な味です。

世界には思わず衝撃的な味すぎて体の動きが一時停止してしまうような面白い味のものもありますが、その国でしか食べられないものを試すのはいつも楽しいです!

ここまでで紹介したグミは、セイヨウカンゾウが初めてでも何とか完食できるレベルかと思うのですが、そんなセイヨウカンゾウの商品でも最も有名なのは、塩化アンモニウムを加えたバージョンのサルミアッキ(Salmiakki)というグミなんです。

サルミアッキ
サルミアッキ

そしてサルミアッキが生まれたとされているフィンランドでは、サルミアッキはグミの域を超え、アイスクリーム(もちろんこれも真っ黒です)やチョコレート、胡椒入りキャンディーなど様々な形に姿を変えて愛されているとのこと。

この塩化アンモニウムがくせ者で、口にもあっと広がるアンモニアと塩分の香りのハーモニーから、ネット上では「世界一まずいキャンディー」として話題になったそうです。笑

サルミアッキをこよなく愛するフィンランドの人たちに申し訳ないやら、それにしてもなんとも不名誉な名前ですね。汗

日本にはなかなかない味だと思うので、もしサルミアッキを見かける機会がありましたら、是非試してみてくださいね〜!

そもそも、何故そこまでしてスペインカンゾウのグミに塩化アンモニウムを入れなければならなかったのかしら、と不思議に思い調べてみたのですが、どうやら塩化アンモニウムにはpHを維持するのに役立ち、穏やかな利尿作用を発揮し、去痰効果や咳の緩和にもなるとのこと。

それを知ってフィンランドの薬局がのど飴として売り出した理由がやっと理解できました。

スペインカンゾウと塩化アンモニウムとダブルで去痰や鎮咳に効くということなんですね。しかし、スペインカンゾウだけでも効果があるのに、何故さらに効果を強めようと思ったのかしら。またまた謎は深まります。

一つ注意点として、塩化アンモニウムの摂取のしすぎは低カリウム血症、高血圧等を招くため、その量には気をつけなければならないということ。また、前記のとおりスペインカンゾウも摂取のしすぎも深刻な中毒になる可能性を高めます。

特に、肝臓と心臓に持病がある人は中毒になりやすい傾向があり1日の摂取量は50g以上を超えない様にするべきだそうです。

パラケルススの言葉ではありませんが、何でも摂り過ぎはよくありませんね。

さて、グミのお話をこんなに話して、ドイツの有名なHARIBO社の話をしないわけにはいられません!

ガミベアーで有名なドイツ誇るHARIBO社があるからか、ドイツではグミ文化がかなり浸透しており、薬草ベースのグミやワインガム(ソフトキャンディーとグミの間のようなもの)もスーパーなどに多く売られています。

ちなみに、ガミーベアはドイツではGummibärchen(グミベアヒェン、直訳で「くまちゃん」)と呼ばれています。

HARIBO製品は日本でも売られているのをよく目にしますが、ドイツでは日本では見かけない珍しい味のものも多く売られています。つい最近は、HARIBO創立100周年の記念で1922年当時の4センチほどの大きめガミーベア(通常は2センチ以下)を再現したものが売られていて、私もついつい買ってしまいました!

HARIBO "Tanzbären" 1922年初代バージョン 復刻版
HARIBO “Tanzbären” 1922年初代バージョン 復刻版

どちらかといえば、現在のガミベアーより旧バージョンの大きいサイズの方が食べやすくて、クマの表情も豊かで可愛いなあと思いました。

4センチもある大きなガミベアヒェン
4センチもある大きなガミベアヒェン

また、ガミーベアだけではなく、ドイツではとにかく多くの種類のグミが売られています。

以前、ドイツ人がいかにチョコレート好きかをご紹介しましたが、ガミーベアもそこまではいかなくとも、かなりの人気を誇っていると思います。どこのスーパーでも様々な味や食感、形のグミが売られており、グミにかなりのスペースを確保しているイメージがあります。(薬草スペインカンゾウのグミもそのグミコーナーにあります。)

ドイツのスーパーのグミコーナー
スーパーのグミコーナー(ドイツによくある光景?)

ドイツにいらっしゃる際には、是非グミコーナーのチェックをお忘れずに!

<参考文献・サイト>
“Encyclopedia of Herbal Medicine” by Andrew Chevallier
“Unsere Heilkräuter” by Dr. Ursula Stumpf
https://www.mein-schoener-garten.de
武田薬品工業株式会社京都薬用植物園ウェブサイト
厚生労働省公式ウェブサイト
PubCham: National Library of Medicine-National Center for Biotechnology Information
(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Ammonium-chloride)

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