ドイツに来てからというもの、ドイツと日本を比べてとても興味深いなあとスーパーでも色々考えてしまうのが
保存食品の保存方法
です。
普段から、ドイツと東北が気候的に似ていて採れる農産物も似ている、自然に育つ植物も似ているのに保存法が違っているのはなんでだろうと思っていたんです。
まずは、日本では味噌や醤油といったものから漬物や干物など、塩をベースに、麹などを使って発酵したものが多いように感じるのですが、ドイツの場合は、
①薫製にする
②発酵させる(乳酸菌など)
③砂糖漬け
④酢漬け
⑤アルコール漬けにする
⑥水煮で煮沸した容器にそのまま保存
が多い気がします。
キャベツを1週間以上発酵させたザワークラウトに始まり、塩辛く味付けた肉を燻製したソーセージやハムをはじめ、魚の魚卵の燻製食品がスーパーでは所狭しと並んでいます。
その他にも、油で一旦揚げて野菜と一緒に酢漬けにされたニシン、揚げずにそのまま酢漬けにされたニシン(少しだけ日本のシメ鯖と味が似ています)、水煮にした野菜(にんじん、さやいんげんなどなど、なんとジャガイモまであります!)などあり、そのスーパーの一角は私にはまるでホルマリン漬けが並べられた実験室みたいに見えます。笑
ジャムやシロップで瓶詰めにした砂糖ベースのものも多く見られ、その種類は日本果物の缶詰の果物の域を超え、イチゴやスグリ、アプリコットやプラム、リンゴ、サクランボ他と本当に豊富です。
これが甘すぎず、そのまま食べても違った味わいでとても美味しいので、私は時々新鮮な果物ではなく瓶詰めのものを敢えて買ってきたりします。個人的にはミラベルという小型プラムのシロップ漬けが大好きです。
容器は、アメリカに住んでいた時の記憶では、圧倒的に保存食は缶詰が多かったかと思うのですが、ドイツは瓶詰めが主流です。
瓶は重いので持ち運びは大変ですが、手作りジャムやコンポート、梅酢の保管や手作り紅生姜や麺つゆを作った時などなど、後々いくらでも再利用できますし、もし使わなかったとしても、瓶リサイクルの場所が必ず家の近くにあるのでゴミの処理には困ることはありません。
プラスチックなどの自然に戻りにくいゴミを出来るだけ減らし、再利用できるサステーナブルなガラスを素材として選び続けるのは、環境を気にするドイツならではかもしれませんね。
食品保存方法に話は戻りますが、以前シンガポールで音楽講師としてカンボジア出身の生徒さんにピアノを教えていたことがあるのですが、この生徒さんのお母さんのおいしい手作りカンボジア料理をよくご馳走になりました。
その中で、一度はハスの茎とパイナップル、ウチワエビ入りの酸っぱいスープなどと共に「ご飯と一緒に合わせて食べて下さい」と、手のひらぐらいの大きさの少し柔らかめの塩からい魚の燻製を頂いたことがあります。
これは、日本の鮭トバやカンカイや姫タラなどの乾き物と比べてもかなり塩辛いもので、東北の塩辛さに慣れている私でもかなり塩辛いと思ったレベルでした。おそらく、普通の日本人の感覚だとものすごく塩辛く感じるものだと思います。
ミネソタ州でお世話になったOjibwe族の友人のうちで作っていたビーフジャーキーもかなり塩辛く作ってあった記憶があります。これも、日本と同じ塩で保存している方法ですよね。
また、アメリカ在住パキスタン人の友人が紹介してくれたのは、マンゴーを唐辛子などのスパイスと塩とで漬けたこれまた塩辛いもの。これもご飯と一緒に食べるそうです。さすが地域柄、スパイスも入ってくるところが面白いですね!
時々わたしも、無性にこのマンゴーのスパイシーな漬物が食べたくなることがあります。今度アジアンスーパーに行ったら買ってこよっと。
こうしてみてくると、アジアは一般的に塩で保存する方法が多いのでしょうか。しかし、アジアと言ってもその気候も違うし、なかなか一概には言えませんよね。
暖かい国では一年中野菜や果物に困ることがなく、そもそも食品を取れない時期のために「保存する」必要すらなくなりますが、それでも沖縄などには黒糖を使った漬物もあるとか!
沖縄では、塩漬けの場合15%以上の塩を使わないと発酵が進んでしまうといった厳しい条件の中、塩で一旦10%ほどの塩で下漬け後に黒砂糖で処理する「地漬(ジージキ)」と呼ばれる漬物があるそうです。
だいたい白梅干しが18%〜20%で、これだとかなり塩辛くて水出ししなければ食べられないぐらいぐらいです。ですから、塩分15パーセントの塩辛さも結構な塩辛さです。
ドイツでは、わたしもアプリコットで11%〜13%で「なんちゃって梅干し」を毎年作っているのですが、それがだいたいギリギリそのまま食べられる結構な塩辛さです。
沖縄では敢えて15%で塩漬けせず、ギリギリそのままでも食べられる塩分10〜12パーセントで短期間漬けておいて、途中から黒砂糖に1ヶ月漬けることで塩辛くて食べにくい漬物を食べやすくしているんですね。
塩分も12%ぐらいを下回ると、寒いドイツでも一気に腐敗の危険がでてくるので、ここが沖縄のジージキを作る方々が、腐らないようにうまく頃合いを見て作っているんでしょうね。きっとこれも慣れでしょうね。
沖縄の地漬(ジージキ)について調べていて学んだのは、塩と砂糖では、漬ける野菜の水分を減らして水分活性を減らし、雑菌の繁殖を抑えて保存性を高める点は同じだけれど、分子構造などの違いから、野菜から脱水させるために必要な量は塩より砂糖の方が多くなるということ。
文章にするとなんだか難しくなってしまったのですが、要するに
野菜から同じぐらい水を抜きたい場合は、塩のほうが少なくてすむ
=水を抜くという作業では、砂糖より塩の方が向いている
ということなんです。
でも、ここで不思議に思ったのが、沖縄も黒砂糖がたくさんありそうなのに、やはりヨーロッパの砂糖漬けのフルーツのように、塩の代わりに黒砂糖を大盤振る舞いするほどまでの量の黒砂糖はなかったのかな、ということ。
こうやって保存食の作り方を見ていくと、塩と砂糖の使用量や割合から、その土地に昔どれぐらいの塩や砂糖があって、どちらが貴重とされていたかが分かるような気さえしてきます。そして、もちろんその土地の気候もその判断材料になりますよね。
ドイツの保存方法に塩ではなく砂糖が多く使われている理由は、塩より砂糖、そして酢やアルコールを作れる材料、燻製に使える木材が昔から多く手に入ったきたからなんでしょうか。
実際、中世のドイツでは、塩がお金の代わりにも使われたほど貴重なものだったらしく、「白い金」とさえ呼ばれたらしいですから、塩を保存食品にたっぷり使えなかったのかもしれません。(ドイツも海に面していたり南ドイツのアルプス山脈のふもとにあるバード・ライヒェンハルという場所で岩塩が発掘され始めたのは石器時代とも言われているそうですから、塩は昔からこのあたりにも存在していたと思うのですが、日本と違って量が違ったのでしょうね。)
しかし、ヨーロッパの気候から、そこまで砂糖もたくさんあったとは思えないですよねえ。そうすると、ヨーロッパに大量にあった砂糖は、大航海時代に植民地化された国から持ってきたものなのでしょうか・・・。謎は深まります。
一方、日本では海に囲まれていますので、比較的塩はそれほど希少ではなかったため、保存食品のほとんどが塩ベースなのもうなずけますよね。
面白いのが、ドイツ人を招いて料理を作る際、日本の感覚でシンプルな塩ベースの味付けよりは、ハーブや他のソースなど、さまざまなフレーバーで味付けをしたほうが好まれるということ。ソーセージでもかなり味の濃いものもあり、わたしにしたら、かなり塩気が強いと感じるのですが、フレーバーがあるものはあまり塩からいとは感じないらしく、一方、ハーブやソースなどの味付けなしで塩味だけが強い料理(例えば鮭を甘塩でしめた焼き魚など)はとても塩からいと感じているような印象があります。これも、もしかしたらドイツで塩が貴重だった中世の名残が、ドイツ人たちの舌に残っているのかな、などと思ったりします。
日本に多く砂糖が入ってきたのは16世紀の南蛮貿易の時からのようですし、それ以前はヨーロッパのように大量の砂糖で漬物や果物を漬けられるほど砂糖が普及していなかったのかな、と想像します。
日本ではなかなか果実の保存食はありませんが、それは果実をさすがに塩漬けにできなかったから諦めただけかもしれませんね。笑 梅干しは、果実を塩につけていますね。でも、やはり桃やりんごは塩漬けにはしにくいですものね〜。
ここまでくると、昔日本が多くを教えてもらっていた中国は、果物をどのように保存してきたかが気になってきました。
しかし、砂糖が普及したあとでも、北東北のような寒さが厳しく砂糖もろくになかった地域では、気候的にも発酵しにくい環境ですし、比較的手に入りやすかった塩だけで野菜を最初から最後まで漬けたのでしょうか。
私の地元でも、とてもそのままでは食べられない塩辛い漬物(おそらく塩分20%以上なんじゃないでしょうか)を何日か水出しして食べる習慣が今でも根付いています。漬物がまるでおかずのようにどんぶりに山盛りになって出てくることもあります。
若干水出しがされきれてなくても、漬物が好きな人も多いですし、その日食べる漬物がなければ切って出してしまったりするので、それは塩分取りすぎにもなってしまいますよね。
東北は脳卒中の率が高いという研究結果があると聞いたことがありますが、昔はそれしか野菜がなかったので食べるしかなかったのかもしれず、それが今にも習慣として続いているのかなと思います。
また、これまたただの想像ですが、貴重な塩を多く使えないので、ただ塩漬けにするのではなく、保存食に酢を入れるようにしたのでは、ということ。
酢を入れることで、貴重な塩の代わりに腐敗を防げますよね。そして、抗菌し腐敗を防ぐと言えば、かつてビールにホップが入れられた背景がそうだったように、薬草も塩の代わりになったのでは・・・。薬草と酢は、塩の代わりに発達した文化なのではないでしょうか。
ほんと、妄想ばかりが膨らみます。(でも、これが楽しい)
今は塩も砂糖もスーパーマーケットで簡単に手に入れることができますが、昔は周りにあるものしか使えないという条件の中、食文化も生まれてきたのだと思います。
国の地形や自然の条件から、人々が食べているものが変わってきて、味覚も違ってくるということが、当たり前であるかもしれないけれど改めて面白いと思いました。
今回は、考えたこと知ったことを並べるだけの回になってしまいました〜。
毎日こんなことを妄想して過ごしています。
ほんと暇人かって感じですね。笑